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「……久保先生は、高校三年の時に担任の先生だったので。」
「そうですか。」
しかし、口ではそう言っていても、郡山の態度は冷たいままだ。
亜希はこれ以上は触れない方が良さそうだと踏んで、カウンセラー室へと急いだ。
郡山は無言のまま、鍵の束からカウンセラー室の鍵を選ぶと、ドアを開ける。
「ありがとうございます。」
お礼を口にすると、少し郡山に笑みが戻る。
「――どうぞ。」
先を譲ってくれる郡山に会釈して中に入ると、カウンセラー室の中は思っていたのより広かった。
「広い……。」
「そうですか? 他の教室とあまり変わらないサイズなんですが……。」
一瞬、「国語科準備室と比べると」と言いそうになって思い止まる。
「簡易ベッドも置いてあるなんて、充実してますね。」
「ええ。」
「具合が悪い状態で来る子もいるから助かります。」
とはいえ、掃除は行き届いていないらしく、少し埃っぽい。
「……今、窓を開けますね。」
「あ、私も開けます。」
部屋の隅には箱庭治療のセットや埃を被った本棚がやや無造作に置かれている。
それでも空気を入れ換えると、急にさっぱりとした雰囲気になった。
「この部屋は電気ポットであれば、お湯を沸かしていただいても結構ですよ。」
春風が淀んでいた空気を入れ替えていく。
「……それとこちらが生徒の名簿。紛失しないように施錠できるところに保管してくださいね。」
「わかりました。電気タイプならアロマテラピー用のポットを用意しても構いませんか?」
「構いません。火気厳禁ですけどね。……じゃあ、ざっと学園の経営状況のおさらいと、今後の方針について説明しましょうか。こちらにどうぞ。」
それからは座学で郡山の話を聞く。
「さっき、自然科コースの成り立ちについて話しましたけど……。」
「高津議員の推挙でって話ですよね。」
「ええ。彼のおかげで、何とか採算が取れてますが、普通科は正直赤字です。」
少子化、国公立志向と、特色ある私立学校ならいざ知らず、並みの学校はどこも赤字ギリギリか、補助金で何とか運営している。
「そこで、次の売りにしていきたいのが、このカウンセラー室なんです。」
いじめ問題やインターネット依存に端を発し、メンタルヘルスに対する世論の考えは年々増してきている。
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