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「勉強どころか、日常生活さえも蔑ろにしかねない状態さえありますからね。」
教師や保護者が携帯電話やスマートフォンを取り上げたところで、あまり効果はない。
「むしろ、反感を買って家出なんて事が起こりますからね。」
「そうでしたか……。」
「ええ、それに下手をすると、教師や保護者に暴力を振るう生徒もいる。そこで、このカウンセラー室なんです。」
その後も郡山は懇切丁寧に、説明してくれる。
「――色んな悩みを抱えている子が来ると思いますし、一人で解決できない案件もあるかと思いますが、まずは進藤先生にその窓口になっていただきたいんです。」
亜希は新しい生活に胸を躍らせる。
「もちろんです。」
郡山は話し終えると、満足そうにこくりと頷いた。
「それでは、戸締まりして職員室に下りましょうか。」
「……あ、あの、その件で相談なんですけど。」
「はい。」
「実は、今日の午後に荷物が届く予定なんです。」
「荷物、ですか?」
「はい、カウンセラーとして必要な蔵書で……。」
「そうですか。」
「なので、その間、こちらを少し掃除しておいてもよろしいでしょうか?」
すると郡山はにっこりと笑って「もちろん」と答えた。
「明日からは進藤先生にこの部屋は管理していただくようになりますしね。何かあったら、職員室まで声を掛けてくださいね。」
「はい。」
そして、郡山が職員室に戻るのを見送る。
亜希は辺りを見回した。
――何となく殺風景な空間。
(ゆっくり過ごせるような環境にするには……、っと。)
簡易ベッドの他には、角の窓を塞ぐように置かれた本棚と、事務机。
それから、病院の待合室にありそうな長椅子に、四人掛けのダイニングテーブルサイズの机と椅子。
入ってきたのと反対側の入り口付近には衝立てと、胸の高さくらいの棚が置かれている。
(ベッドはあのままに、本棚の向きと事務机の位置は変えて……。)
上着を脱ぎ捨て腕まくりをすると、本棚から本を抜き取る。
その途端、埃が舞い上がり、明るい陽の光がゆらゆらと筋状に見えた。
(うわ……、ひどい埃……。)
元の木目の色が見えると、汚れがやけに際立って見える。
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