彼女にはかなわない

3/43
276人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
水曜日の居酒屋はさほど混んではなくて、すんなりと座敷に通される。 特に予定もないから従ったのはいいけれど、俺の都合とか考えないのかな、この人は。 「生二つ、あと揚げ出し豆腐と串盛りをお願いします」 店員に、にこやかに二本の指を突き出してビールを注文する様は、会社で見るこの人とは全く違う印象を受ける。 柔らかい印象を与える顔つき、優しい目元。 でも、取引先との会合や社内会議ではズバリと切り込んだ発言もする。 俺と並べばどう見たって彼女の方がアシスタント風なのに、ひとたび会議が始まれば担当は彼女でアシスタントは俺の方だという事実があっという間に露呈する。 かなわないんだよなー、この人には。 そんなことを俺が思っていることなど、彼女は欠片も気づいてないだろう。 座卓を挟んで向かい合わせに座れば、ニコニコとこちらを見る田代さんの様子に気が抜けた。 「俺に予定があるとか思わなかったんですか?」 おしぼりに手を伸ばしつつ、少し責めるように問いかける。 すると彼女は笑顔のまま、でも少し眉を下げた。 「んー……最近の山下くん見てたら予定無さそうかなあって」 なんだそれ。 思い当たる節があるからこそ、不信感が沸き上がる。 「なんでそんなこ」 「見ちゃったんだよね」 俺に先を言わせず、田代さんが伏し目がちに被せてきた。 「深山さんが斎藤さんと腕組んで歩いてんの」
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!