一夜限りの魔法だったとしても

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次々と店に立ち寄ってはフィッティングを繰り返すこと二時間半。 既に私はくたくたで、休憩に立ち寄ったコーヒーショップでテーブルに突っ伏した。 「お疲れ様」 テルくんの苦笑に顔を上げる。 こんなことに付き合ってるテルくんだってすごく疲れてるよね…。 「ごめんね、何から何まで」 申し訳なくて俯く私にテルくんは楽しそうに言う。 「俺の方こそごめんね、連れ回してるし。 俺はむしろ助かってるよ、全部コーディネイト出来るからイメージ固められるし。 それに」 そこで言葉を切るから、気になってテルくんの顔を見ると、彼はニヤッと口角をあげた。 「お姉さんのファッションショー独り占めなんて超貴重じゃない?」 口が上手すぎる。 「この人の舌を抜いてください」って閻魔様に直訴してやろうかしら。 ギロリと睨むと、「あはは」と心底楽しそうに笑って、テルくんはコーヒーを飲み干した。 「さて、松井さんに会いに行きますか」 色々試着したけれど、結局松井さんのお店のドレスが一番似合ってたとテルくんが言う。 私もあれ以上にしっくりきたと思えるものがなかったので同意した。 松井さんの店に行くと、彼女は明らかにほっとした表情をした。 おまけにドレスに合いそうな靴や小物までセレクトしておいてくれたので、あっという間に上から下まで揃ってしまった。 私が持参した靴ではイメージを損ねるらしく、使い回しが出来なかったことにテルくんは謝り通しだったけど、私は全然気にならなかったし、むしろ私のために尽力してくれたテルくんと松井さんに、何度も何度も頭を下げた。 夕方までの時間を目一杯使わせてしまったことが申し訳なくて、夕食くらいご馳走しようかと思っていたけど、テルくんは用事があるからと私を送り届けて帰ってしまった。 「絶対綺麗にする自信あるよ」 部屋の壁にドレスを掛けて眺めながら、テルくんの言葉を思い出し、くすぐったい気分になって少し笑った。
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