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それ以上何も言わないイチさんに、私も返す言葉が見つからなくってだんまりを決め込んだ。
「あ、ナリ。ちょうど」
たどり着いた四課のデスクに荷物を置くと、イチさんはすぐに去ってしまった。
それと交差するように、国ちゃんが私を出迎えてくれた
「沢木商事の佐伯さん、折り返し」
「――あ」
佐伯さん、というのは以前から出野部長に数回駆り出されていた接待先の城山部長の営業事務の女の子だ。
城山部長とはそもそも接待というよりも、出野部長のモト学友。だとかで。
今から思えば、出野部長は初めから私を四課に異動させるつもりだったんだな、と感じた。
私を同席させたのも、今後の――
「お世話様です、東洋の成田ですが、佐伯さんはいらっしゃいますか」
折り返しの電話をして、
「あ、私です。成田さんお久しぶりです」
落ち着いた、佐伯さんの声に
「お電話頂いてたみたいで、すみません」
「いえ、出野さんが外出だと伺ったので。確か、成田さん今日から異動に、と記憶してましたもので」
クス、っと笑った明るい声が耳に響く。
佐伯さんの声はいつもやわらかくて、落ち着いている。
本人も、物腰が柔らかくて人当たりのいい素敵な女子だ。
出野部長への確認事項をかわりに受け取って、電話を切った。
私の担当先は、沢木商事だ。
「佐伯さんてさ」
電話を終えて、段ボールから荷物を出していると、隣から国ちゃんが声をかけてきた
「ん」
「かなりしっかりしてるよな」
「だねー」
「ナリより、若いんだろ?」
「うん、4つ下かなー」
「見えねーな、落ち着いてて」
「ははっ、だね」
うん、妙に落ち着いているけど。
――どこか、影があるような。
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