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轟音と共に帰還したジェットコースターが、ガガガガ、と揺れながらスピードを落とし、最後の急なブレーキへの大きな反動で、乗客たちが揃ってがっくんと首を揺らす。
ゆっくりと発着地点へと滑って行くコースターの中で、わたしは大きく息をついて、髪の乱れを直しながら、隣の先生に声をかけた。
「もーー、すっごい怖かったー。ね、先生」
「……」
…あれ…?
微動だにしない先生の肩を、ちょんちょん、とつつく。
「…せんせ…」
「……ん?」
「……」
わたしは目を見開き、愕然として先生の顔を見つめた。
……はるきち……。
口からエクトプラズムが抜け出ちゃってるよ……。
安全バーが一斉にガゴンと上がると、先生はやや乱れた髪のまま、機械的に地上に降り立った。
平衡感覚が揺らいでいるのか、降車した人混みに紛れ、ぎこちない動きで出口階段の方へと向かう。
不自然な歩き方をよく見ると、膝がほとんど曲がっていなかった。
「せ、先生っ…」
私は急いで後を追って、先生の腕を支えた。
「大丈夫ですか?」
「…何が」
「……」
わたしは半歩遅れて階段を降りながら、くしゃっとなった先生の髪を手櫛で丁寧に梳いた。
階段を降り切ったところで、ぞろぞろと降りて来るカップルたちの流れから二人で抜け出し、先生の顔を下から覗き込む。
「ごめんね、先生…」
「…ん?」
まだほんのりうつろな状態のまま、先生が私の顔に焦点を合わせる。
「…わたしが、ジェットコースターに乗りたいって、車の中からずっと言ってたから…。そりゃ、苦手だなんて、言えなくなっちゃいますよね…」
「……」
いつもなら、『別に苦手じゃないよ』と言い返して来そうなところだけれど、…三半規管をやられてしまっている今、さすがの先生もそんな気力は残していないようだった。
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