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「…ちょっと、休みましょうか、…ね?」 「…うん…」  先生は腕を引かれるまま、切り株を模した椅子に腰かけた。 「何か、飲みますか?」  わたしの問いに、黙って首を振る。 「何か、ほしいもの、ある?」  もう一度、首を横に振る。  ――やだ、先生ってば…。  …めちゃめちゃ、抱きしめたい…。  弱り切っている故に、やけに素直な先生が可愛くて――つい笑顔を零しそうになり、慌てて堪える。  笑ったら、いくらなんでもかわいそう…。  わたしは何とか神妙な顔をキープしたまま、先生の隣の切り株に腰かけた。  高速を使い、1時間ほど車を走らせた郊外にあるこのマイナーな遊園地は、週末ナイトチケットというお得なフリーパスをウリにしているらしく、夜だというのに未だたくさんのカップルたちで賑わっている。  教室を抜け出し、ここにこうしている限り、わたしたちもまるで普通の恋人同士のようにこの景色に溶け込むことが出来ているのかもしれない。  引き続き放心している先生の手を取り、膝の上で握り締めながら、わたしは先生の腕にこつんと寄り掛かった。  ほんの数時間だけだけれど、こうしてデートの約束を叶えてくれた先生は、世界で一番、優しいと思う。 「先生」 「ん」 「…もう少し休んだら、次はあれ、乗りませんか」  わたしは、ちょうど頭の上をのんびり通過しようとしている、サイクルモノレールを指差した。
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