1109人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
…失敗した…。
わたしはサイクルモノレールのペダルを、必死になって漕いでいた。
「お前…。体力、ないな」
「…だって、…ここのコース、…きつく、…ないですか…」
「たしかに、普通より登り坂は長いかもしれないけど。…それにしたって…」
先生は涼しい顔でペダルを漕ぎながら、呆れ半分、面白がり半分で、わたしの顔を見ていた。
…本当に、失敗、した…。
明らかに、選択ミスだった…。
まさか、…楽しいはずの遊園地に、こんな体力勝負の乗り物があるなんて…。
弱ってしまった先生のために、呑気に景色を眺めながら、おしゃべり出来るものを選んだつもりだったのに。
息が上がって会話どころじゃないし……。
「先生、…体力、…ありますね…」
「お前が無さ過ぎなんだって。若いのに」
「…先生は、…どうして、…歳の割に、…そんなに、…元気なんですか…」
「お前さ…。人を老人みたいに言うなよ。…俺は、ちゃんと朝、走ってるの」
「えっ…そうなんですか」
「雨が降ってなければ、毎朝ね」
「…すごい、ですね…。それが、…長生きの、…秘訣…」
「だからさ…、俺はいったいいくつなんだよ、お前の中で」
「…ちょ、ちょっと、せんせ…今、話しかけないで…」
長い長い坂をやっと上り切ったところで、不意にレールが見えなくなった。
「あれ」
ガクン、と前のめりに揺れたかと思うと、目の前に現れたのは、長い長い下り坂。
しかも、…意外と、角度がきついような…。
「あ」
先生が小さく声を上げたのが聞こえ、わたしもぎゅっと目をつぶると、…二人の乗ったスカイサイクルは、ものすごい勢いでモノレールの上を滑降して行った。
最初のコメントを投稿しよう!