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レナさんはさりげなく周囲を見回し、他人の耳が無い事を確認してから、テーブルに身体を乗り出した。
「白井くんには、何も言ってない?」
抑えた声に、わたしもさらに声を落とした。
「はい。…あれから連絡も取っていないので…」
レナさんは真剣な顔で頷いて、
「今日、私とここで会ったことも、…これから話すことも、…白井くんには内緒にしてほしいの。…いい?」
「…わかりました」
緊張で、自分でも顔がこわばるのが分かる。
「…どう話したらいいかな…」
レナさんは少し考えてから、
「まず、…白井くんの仕事がフリーライター、ってことは、知ってるわよね」
「はい」
「彼がいる世界って、…もともと、合法と非合法の境目を行ったり来たりしてる部分があるの。…それは、理解できる?」
「…はい…」
確かに、…取材のために学校に忍び込むことも、嘘をついて夜の病院に入り込むことも、立派な罪だ。
「彼が扱う物は、他人の『秘密』だったり、『知られざる真実』だったりするでしょう。
ということは、どうしても、彼が掴んだ『何か』の存在によって、不利益を被る人間も出て来るわけ」
「…はい…」
「そこが、落とし穴というか、分かれ道なの。
他人の秘密を握った時、それをどう使うか。
極端に言ったら、その『ネタ』を利用して、白井くん自身が利益を得ることも、出来るわよね」
「…利益…?」
「つまり、…『ネタ』をもとに、誰かを脅すこともできる、ってこと」
わたしは目を見開いた。
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