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「どんな、内容だったんですか」
そこで、怯えたようにもう一度辺りを見回すと、レナさんはさらに身体を乗り出した。
「怖い男の人の声で…。『例の物はどこにあるんだ』って。
『そっちがその気なら、その部屋ごと焼き討ちにしてやる』って…」
「…えっ…」
ぞわり、と背中が泡立った。
まるで急に気温が下がったように悪寒が走り、わたしは思わず、自分の両腕を抱えた。
「怖いでしょう?…私、もう怖くて耐えらえなくて、…すぐ、白井くんに問いただしたの。
どんな危ない事に手を出してるのかって。危険な事は止めてほしいって。そしたら…」
レナさんは、悲しそうに眉を下げ、唇を尖らせた。
「…合鍵、取り上げられちゃって、…もう、部屋に入っちゃダメだって…」
「……」
レナさんの顔が歪んで、目に涙がジワリと浮かんだ。
「私、…心配なの。…白井くんの身に、何かあったら、私…」
「レナさん」
わたしは慌ててレナさんの手を握った。
「大丈夫ですよ。白井さんは、強いから…」
顔を伏せ、泣きそうになっているレナさんを何とか元気づけようと、わたしは言葉を探した。
「…そうだ。わたし、白井さんに、話してみましょうか。
レナさんを泣かせちゃダメだって、わたしが言えば、もしかしたら…」
「ダメ」
思いがけず発せられたレナさんの大きな声に、わたしは驚いて言葉を切った。
「萌ちゃんに話したなんてばれたら、…私、今度こそ白井くんに嫌われちゃうから…。…このことは、内緒にしてほしいの」
「あ、…そうでしたね、わたしこそ、ごめんなさい」
わたしはぺこ、と頭を下げた。
そこに、足音が近づいて来て、わたしたちは口をつぐんだ。
「お待たせしました」
コーヒーがテーブルの上に置かれるしばしの間、会話が途切れる。
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