横断歩道とボーダー

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二人は軽音サークルの先輩後輩らしい。 どんな音楽を聞いているのかとの問に、私があげたバンドは意外だったらしい。 二、三あげたのだが。 「割と激しいの好きなんだね。」 「トーノ言い方やらしいから」 牧田さんが突っ込む。 殆ど会話の中心は牧田さんだった。 トオノさんは、曲を作るので一応どんなジャンルでも聴くように心がけてるらしい。 じゃ、そろそろ、とトオノさんが立ち上がり、私も襟を引かれた。 「ごちそうさまでした」 「こちらこそ酒ありがとう。」 少し軽くなった瓶を抱えて靴をはく。 「ゴスロリと大根と一升瓶、こんな光景を見る日が来るとは」 牧田さんが呟く。 「これはゴスロリではありま」 「オヤスミナサイ」 トオノさんがドアをしめた。 「面白い話をちょっと独り占めしたい気分」 エレベーターをトオノさんが通り過ぎる 「酔ってんすか?」 「ああ、俺ね、酒弱いの。でも今は気分良いから、ちょっと階段の気分。」 なんか、昼間もふわふわしてたけど、憎めない可愛い顔をしてる。 階段の踊り場で、グラスに日本酒注いでたら、振り返ったトオノさんが目を見開いた。 「...なんか、ビックリ通り越して言葉無いんだけど。」 「駄目ですか?」 「いや、もう入れちゃってるしどうせ家で飲むんでしょ」 「カレシでもないからとやかく言いませんけどね」 コンクリートの手すりに腕を預けて、もたれている。月、と喉を反らせて呟く。 喉全開、隙だらけ。 野生動物なら2秒で即死です、兄さん。 ちびちびと飲む。 「秋刀魚のさ、」 顔を上げると、彼は笑っている。 「リツカちゃん、苦いとこ食べてたでしょ。」 頷く。 「同い年なのに大人だなと思ったけど、単に酒飲みの舌なんだね」 トオノさんはニコニコ笑う。 うん、いいなこの人。 多分、人のことを悪く言ったりしないような気がする。 後日、案外毒舌だと判明する。
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