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「今日は何なの」
出会うとまず、トオノさんに聞かれる。
「オズの魔法使い」
服のテーマのことだ。
「ブリキのロボットをイメージした、蝶番とグリーンの石で作ったブレス。
ネイルは虹で、服はカントリー調。ライオン風の革靴」
「ゴメン知らねえ」
それでも聞いてくれるのがいいところだ。
「その髪の編み編みは何?」
「なんか田舎の子っぽくしたかったんだけど、お下げは似合わなかったので。」
「ふーん。俺も髪伸びたらやって」
私もこういう話をするのが楽しみになっていた。
「トオノさんは、今日はなんですかね」
「今日はちょっと可愛い系」
黒の襟ぐりの広いカットソーにグレーのセンタープレスのパンツ。エンジニアブーツ。最近のお気に入りらしい骸骨のピアス。可愛いかな?
「七分丈?クロップドパンツなんですかねコレ」
指差すと、さあ、と笑った。
「貰いもんだからわかんない。でね、何が可愛いかってえと、見てみてー」
ぺろっと服をめくる。
「裏のタグがピンクなのよ。だからパンツもピンクにした」
「見せんなっ」
トオノさんは、いつもフワフワしている。
細い。
今日みたいな貰い物の服は、女の子からが多いみたい。
プレゼントではなく、
いらないから、もしくは着られないからあげる、だとか。レディースも余裕だ。
サイズも雰囲気も。
「けっこう、変わった服もらうからさ、リツカちゃんもまた見に来なよ」
そのうち、と答えたままだったな。
トオノさんは、ライブハウスに行くらしい。
まだ早いけどフラフラ歩くのが好きなんだ。
私は手芸屋に。
「今日夜に、何か甘いもの食べようか」
トオノさんが言う。
「なにその彼氏サンみたいな言い方」
時々わけのわからん事を言う。
無駄に良い声をだして、『なんちゃって彼氏』になる。
大通りで別れた。
彼の歩く姿勢が、颯爽としていて好きだと思った。
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