ブリキの人形と編み込み

6/6
前へ
/37ページ
次へ
「トオノさん、楽器ひけるの?バンドで何やってるの」 「まあ、一応。ボーカルだけど、サークルでは人足りない時はギターとかドラムもする。鍵盤は弾けない」 服以外の話をこれほどしたのは、初めてかもしれない。 「オズの魔法使いってどんな話」 ふいに聞かれる。 「少女が竜巻で、巻き上げられて魔女の力を借りて家に帰る話。旅の仲間が、皆どっか欠けてるの。脳のない案山子と、心のないブリキの人形と、勇気のないライオンと。」 トオノさんは、目を閉じて聞いている。 「オズの魔法使いは、本当は魔法使いじゃない。でも、魔法を求める人のために魔法を見せる。」 トオノさんがパチ、と目を開いた。 「うわ、寝たんかと思ってた」 「せっかく教えてもらってるのに?」 顔、近い。 それになんか、笑ってない。 「トオノさん?」 「それ、やめない?タメでしょ」 「トオノ?」 「それでもいいか。敬語もやめよ」 いつも柔和で、フワフワしてるのと違って、目が鋭い。 「ちょっと、曲思いついた」 「ああ、それで」 トオノさんが首を傾げる。 「何が」 「目が光ってた」 ツボにはまったのか、笑われたが。 「忘れないうちにギター触らねーと。じゃけ、帰るわ。ありがとね」 たち上がったトオノさん。 じゃけ? 「待て。」 玄関でトオノさんの腕を掴むと、ビクッとして振り返った。 「どこ出身?」 「え?広島だけど」 「はあああ?なんで標準語やねん」 「べつに標準語じゃねえよ?母親が関東だから、ぽいのかな。てか何でそんなに驚いてんの」 「わけわかんねえ。テンションが東っぽいんや。」 「リツカちゃんのが今までになく声張ってるし」 笑いながら言われる。 「ああ、ゴメン。酔ってるかも。かなりの衝撃だったわ」 「え?俺、なんか方言でも言った?」 「ゆった。」 「え、なに言ったのオレ」 「早く弾かないと忘れるんやろ?」 「リツカさーん、教えて」 手を振って追い出した。 「可愛いじゃねえかよお」 ...オッサンのように壁に手をついて本音をもらした。 じゃけ、て。 「あー、酔ってるわ。うっかりときめいた」 気分良くなったので、ダルメシアン柄の帽子デザインをメモしてから寝た。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加