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「トオノさん、楽器ひけるの?バンドで何やってるの」
「まあ、一応。ボーカルだけど、サークルでは人足りない時はギターとかドラムもする。鍵盤は弾けない」
服以外の話をこれほどしたのは、初めてかもしれない。
「オズの魔法使いってどんな話」
ふいに聞かれる。
「少女が竜巻で、巻き上げられて魔女の力を借りて家に帰る話。旅の仲間が、皆どっか欠けてるの。脳のない案山子と、心のないブリキの人形と、勇気のないライオンと。」
トオノさんは、目を閉じて聞いている。
「オズの魔法使いは、本当は魔法使いじゃない。でも、魔法を求める人のために魔法を見せる。」
トオノさんがパチ、と目を開いた。
「うわ、寝たんかと思ってた」
「せっかく教えてもらってるのに?」
顔、近い。
それになんか、笑ってない。
「トオノさん?」
「それ、やめない?タメでしょ」
「トオノ?」
「それでもいいか。敬語もやめよ」
いつも柔和で、フワフワしてるのと違って、目が鋭い。
「ちょっと、曲思いついた」
「ああ、それで」
トオノさんが首を傾げる。
「何が」
「目が光ってた」
ツボにはまったのか、笑われたが。
「忘れないうちにギター触らねーと。じゃけ、帰るわ。ありがとね」
たち上がったトオノさん。
じゃけ?
「待て。」
玄関でトオノさんの腕を掴むと、ビクッとして振り返った。
「どこ出身?」
「え?広島だけど」
「はあああ?なんで標準語やねん」
「べつに標準語じゃねえよ?母親が関東だから、ぽいのかな。てか何でそんなに驚いてんの」
「わけわかんねえ。テンションが東っぽいんや。」
「リツカちゃんのが今までになく声張ってるし」
笑いながら言われる。
「ああ、ゴメン。酔ってるかも。かなりの衝撃だったわ」
「え?俺、なんか方言でも言った?」
「ゆった。」
「え、なに言ったのオレ」
「早く弾かないと忘れるんやろ?」
「リツカさーん、教えて」
手を振って追い出した。
「可愛いじゃねえかよお」
...オッサンのように壁に手をついて本音をもらした。
じゃけ、て。
「あー、酔ってるわ。うっかりときめいた」
気分良くなったので、ダルメシアン柄の帽子デザインをメモしてから寝た。
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