深海とダルメシアン

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「はやっ」 「うん、頑張った」 「どうぞ。そういや、酒持ってないの珍しいね」 初めて入るトノくんの部屋は、とても片付いていた。 というか物が少ない。 深海の色のカーテン。 CDの棚が塔のように立つ。部屋の主のように存在感がある。 部屋の隅に赤いギター。 折りたたまれたベッド。 円形のファーのラグ。 「広いね。きれいだね。」 思わず言うと、笑われた。 「同じ間取りなのに。」 「...そのはずやね。」 「りっちゃんの部屋は面白い物が多くてオレ好きだけど」 いつも散らかしてるけどね。 「なんか工房とかアトリエとか、工場みたいで、いつも作りかけの物があるし」 「女子力皆無ですみません」 トノくんがコーヒーを渡してくれる。 「曲ってオズの魔法使いの?」 「そうそう。直接的ではないけどね」 プレーヤーから流れてきた曲は、切ないメロディーだった。 「きれいだけど、歌じゃないんや?」 トノくんは、はは、と笑った。 「詩が出来てないから、歌えない。」 そういうものかと思った。
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