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家でじっとしているのもなんだか嫌で、私は着替えると近所の公園まで歩いてきていた。誰もいない公園はなんだかとても不気味で乳白色の電灯が錆びはじめた遊具を照らしている。その一つブランコに腰を落とし、私ゆっくりとそれを動かしていた。
ギシギシと錆びた鉄の音が耳障りに聞こえてくる。
「ごめん」
耳に届く静かな声に私はゆっくりと顔を上げた。
そこには晃子が立っていた。シフォンのキャミソールが動くたびにふわりと揺れている。その顔は電灯に照らし出されている為か色味など感じさせない。滑らかな白い陶器の様に見えた。
晃子は息を一つ吐き出して私の隣。空いていたブランコに腰を掛ける。軋む金属が嫌な音を立てた。
私は彼女が来たことにさして驚きもしなかった。いつからか私はここに来ることが習慣付いていたからだった。苦しい時。悲しい時。嬉しい時。ここに来ると昔から自然と落ちなぜか着くのだ。冷静になれる。それを幼馴染であるはずの晃子が知らないはずはなかった。家にいないとなると、ここに居るはずだと踏んだのだろう。落ち着ける場所に。
ただし。それは私が手に持っている物があってこそ成立するのだが、彼女にはそれを話していない。何となく話そびれてしまっていた。
「大丈夫。ほんと。驚いただけだから」
その言葉を何度繰り返した事だろうか。――本当に。大体私が悪いのだ。晃子は何一つ悪くなんてないのに。私は口許に苦笑を小さく浮かべ、月に視線を向けた。淡い三日月。その近くで小さな星が瞬いている。
『盗られたくない』なんて思うなんて。そんな自覚なんて無かったけれどよく突き詰めればきっとそうなのだと思う。彼女は私の大切な親友でどこかに行くような気がしてしまっていたのかもしれない。
そんな事は無い。と知っているのに。
「あの――言うつもりだったの。けど一之宮だし。ホラ」
言いにくそうに言葉を紡ぐが私はその顔を一切見なかった。
「うん。一之宮、いいやつだし。お似合いだと思うよ」
私は口許に笑みを浮かべて見せた。
「う、ん。ありがとう? でも……どうしてこうなったのか、私にもよくわからない――」
どこか意外そうな声だった。私が祝福しない。そう思ったのだろうか。一之宮をまだ好きでいると。
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