プロローグ

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 なぜ彼女は死ななければならなかったのだろう。と彼は夜空に浮かんだ月を見上げながら考えていた。  地に落ちるのは淡い月明かり。どこか冷たく見えるその光は一面を雪に覆われた世界を照らし出し、すべて白く浮き立たせていた。  寒く冷たい世界に静寂だけが包む。まるで時が止まったかのように誰もがすべてを忘れて眠りについたような世界だった。  美しい世界にただ一人取り残されたように彼はただ、ただ雪の中で佇む。身体が冷え切ってしまう事などどうでもよかった。どうせならもうこのままと願う程に。  吐き出す息は白く、すぐに大気に溶けていく。  ――どうして君は死ななければならなかったのだろう。あの力に呪われて死すべきだったのは、私のはずなのに。 「どうして」  虚ろに呟いたその声に誰も答える者などいない。 ただ、ただ死にも似た静寂の世界にゆっくりと溶けるように消えて行った。
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