風花

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 半ばその校舎全体に響き渡るような声に私は心の中で悲鳴を上げていた。もしかしたらこういう事を『公開処刑』と言うのかもしれない。彩にとっても私にとってもいいことではないはずなのに、どうしてこんな事を選んだのだろうか。  彩の後ろで歓喜が巻き起こるが同時、違う方向からヤジが飛んでくる。なんだか暴動でも置きそうな勢いだった。  怖い。――一色触発と言う雰囲気に顔が思いっきり引き攣った。 「え。 とね?」  廊下の向こうに『ファンクラブ』のメンバーを確認していた。私は息を飲むと少女の手を掴む。そして逃げるように駆け出していた。怖い顔だ。あの時の芹はともかく何をこの少女がされるか分からない。 「分かってる? ――これからろくなことにはならないと」 「はいっ」  かなり舞い上がっている彩は絶対分かってないし。口端が引き攣るのを感じていた。  私は彩を連れて階の端にある準備室に身体を滑り込ませた。授業で使うのだろう。珍しく鍵がかかっていない。小さな部屋には予備の机や椅子。古びた地図や大きな三角定規などが押し込まれていた。案外よく使われるのだろうか。埃はそこまで溜まっていない。 彩が『ここは』と言ったような気がしたが聞こえないふりをして隙間から外を覗き込んだ。  見ていると何人かが追いかけて通り過ぎていくのが分かった。すごい形相で怖かったがとりあえずよかった。と思う。もうすぐ授業が始まる。そのころに出て行けばいいだろうか。音をなるべく立てないようにして扉を閉める。  私は胸を撫でおろし彩に目を向けた。 「――ったく。とにかく。このことは先生に言って何とか処理を」  使えない教師を思い出して私はため息をついた。だとしたらどこに言えばいいのだろうか。警察は違う気がする。  だが彩はそんな事どこ吹く風で私に抱き付く。私より数段小さくて細い身体。柔らかく温かな小動物のようだった。 「ちょ?」  ふふふふ。と不敵に笑うその声に悪寒が走るのを感じた。 「二人きりですね? 知っていますか――先輩。ここは恋人たちが二人きりになるためにわざと鍵が壊されているんです」
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