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逆光になってよく分からない。先生だろうか。む
「何してるんです? 授業に遅刻したいのですか?」
低く刺すような声に少女は驚いた様に肩を震わせると私から降り、背を正す。その後で誰に謝ったのか『ゴメンナサイ』と言って素早く走って出て行ってしまった。
『――ったく。最近の女の子は全部ああなんですか?』と呆れたように呟いてため息一つ。扉も締めずに入ってくるのが分かったけれど私は放心状態で身体を動かすことが出来なかった。
行かなければ。と思う程になぜか身体が強張る。
「千里様――邪魔むしましたか?」
心配そうに覗き込む漆黒がそこにあった。すべてを包み込むような漆黒だ。見覚えのある、それに私はぼんやりと呟いていた。
「芹?」
どうして。そう言おうと思ったのだがなぜか唇が震えて何も出てこない。手も足も制御できないほど小刻みに震えている。何も考えてないはずなのに両眼から涙が溢れだしてどうしようもできなかった。
「な、ん……?」
怖くなんて無かったはずなのに。見開いた双眸に彼の悲しげな顔が映った。
「ああ、ええと。大丈夫だから――なんか安心したみたいで。……助けてくれてありがとう。芹」
なんて説得力の無いお礼だろうか。とは自分でも思うのだが涙が止まらないので仕方ない。せめて笑顔を浮かべて見せるがどんな顔をしているか自分でも分からなかった。たぶん彼が大きくため息をついているぐらいなのだからよくはないのだろう。
「千里様――言ったでしょう? あなたは我慢のしすぎなのだと――少しだけ失礼しますよ?」
不意に抱きすくめられて微かに私は身を強張らせたが不思議と嫌ではなかったし安心する。彼の暖かさが流れ込んでくるようにも思えた。それはとても優しい。
「大丈夫ですよ」
「――うっ」
耳元で宥めるようにささやく声。それに反応するようにしてまた涙がこぼれた。こうなったらもう何者にも止められない。それは自分自身ですらできないことだ。次から次に流れるそれを拭うことなく芹の濡れに縋り付く様にして子供の様に泣いた。
「大丈夫」
彼はチャイムが鳴る中、私の何度も何度も耳元で囁くようにしていつまでもそう呟いていた。
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