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――きれいですね。彼はそれを見て小さく呟いた。
闇が落ちる公園。相変わらず異様な静けさだけが広がっていた。夜に溶け込むような髪と目を持つ青年は私から差し出された銀のブレスレットを眺めていた。漆黒のその双眸は何を考えているのか窺い知ることは出来ない。ただ、それをぼんやりと見つめている。
月のモチーフが施されたブレスレット。それはまるで今浮かんでいるような月を模したかのようだった。
その整った横顔を眺めながらどちらがきれいなのだか。と私はふと思う。もちろん声になど出すことなんてできないけど。
「私の為に?」
彼は顔を上げて不思議そうに私を見た。思わず見とれていたことに気付いて私は慌てて目を顔を反らしていた。
こんな事慣れているわけでもない。――しかも男性に送ったことなど一度も無かった。それがたとえ何の含みもないお礼であっても。恥ずかしすぎて顔が紅潮するのが分った。
「う、うん。お礼に――とも思ったんだけど。いろいろしてくれたし。いっ、いらないなら」
何がいいか。悩んだ挙句ブレスレットで落ち着いた。食べ物でもと思ったがいつ会えるか分からなかったし。芹がいつ現れてもいいように軽々持ち歩けるものをと考えて――今日だって示し合わせたわけではなく、久しぶりに会ったのだ。コンビニに行く途中にここに寄っただけなのだけれど。
芹はくすりと笑うと肩を竦めて見せた。
「私が千里様ま為に何かすることは当たり前です。気にすることではないです。そんな事。それにお礼なんてしていただくわけには――」
彼が言い切る前に私はベンチから立つ。分かっていたのだ。どこかで迷惑かもしれないと。だけれどお礼の気持ちは何かしたくて。
仕方ない。何か――やっぱりケーキ辺りが良いだろうか。
『いらない』そう最後まで聞くのはなんだか傷つくような気がして私は無理に明るく声を発していた。
「あ。ごめん迷惑だったね。やっぱり――うん。じゃあ今度ケーキ食べに行こう? 私がおごりっていう事で。晃子も誘って」
うん、やはりそちらの方が楽しそうだ。自身で考えてもそう思うのだから芹にしてみればなおさらかもしれない。
苦笑交じりにブレスレットに手を伸ばすと私の手を拒否するようにして芹はそれを隠した。分からなくて顔を顰める私になぜかニコリと笑顔を返す。
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