明星

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 休み時間。私はいつもの様に窓から外を眺めていた。特に変わったものは無い。グラウンドには次の授業で使用するのだろう。赤いジャージを着込んだ先生が一人で何かを用意していた。 温かな日差し、少しだけ冷たく感じる風はカーテンを揺らし、髪を巻き上げて頬を掠めていく。  私は少し眠気を感じて欠伸を噛み殺した。 「嬉しそう、だね。中藤さん」  ごく普通に、クラスメイトに声を掛けられたのはどの位前の事だっただろうか。消しゴムを拾ってくれたり、本を貸してくれたり。と言う事はごくまれにあるのだけれど。こうして話しかけられたのは思い出せないくらい遠い昔のような気がする。  信じられない面持ちで声の方向を見るとそこには遠慮しがちで少女が立っていた。どこか周りを気にしながら。  幸いにも誰もこちらを気にしていないようだ。そういえば次の授業。教師が物理で小テストをするとかなんとか言っていた気がする。諦めて寝ている生徒を除けばほとんど机に向けてブツブツ言っている。さらに諦めた人間は教室から避難したらしい。  ちなみに私は完璧とは言えないけれどある程度理解していたのでテストなどどうでもよかったし、友達もいないので合わせる義理も無い。 「ええと。沢木、さん?」  思わず確かめるようにして言っていた。あまり自信は無かったのだ。けれどどうやら合っているらしい。 「あっ、ごめん。つい、うっかり――でもこの頃嬉しそうで、何かあったのかなって」  言うと彼女は苦笑して私に背を向けるように話した。少し悲しいがそうしなければ私と親しいと思われてしまうからだろう。思われてはいけない。それはいじめの対象者になる事を意味していたし、私の所為でそんな事になるのは私自身も嫌だ。  私も自ずと窓に視線を戻した。 「あの、楽しい?」  どうして突然そんな事言うのだろうか。彼女が言っていることが分からなくて私は首を傾げた。 「悪いけど、中藤さんって――あの、その。特殊な人たちを抜きにしても近づき難いじゃない? なんというか。顔が人形のようで」 「へ?」  人形。初めて言われた気がする。『暗い』とか『生きてるのか』とか酷いことを言われたことはあるけれど。当たり前だろうが私を知る人間は当然そんな事一言も言う事など無かった。
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