明星

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 屋上に続く扉を私は乱暴に開けていた。そこには抜けるような蒼天。その下に彼女は立っていた。  ふわりと白い髪が風に舞う。まるで絵の中に入り込んだかのような空想的な図だと思った。  桜色の双眸をゆったりと動かすと彼女は私に目を向けた。ずっとここに居たとは思えない。しかし彼女は待っていたと言う様にふわりと笑う。 「あ」  笑顔に反応するようにして心臓が鳴ってしまう。彼女の顔にはもう慣れたはずだったのに未だ少しだけ顔が紅潮するのを感じた。  少女の腕には私が送った銀のブレスレットが輝いている。ただしメンズものであるため『今の芹』には細すぎるらしい。ミサンガで落ちないように留めてあった。 「芹っ!」 「はい?」  ズカズカ歩いて彼女の横に並ぶといかに芹が小さいのが分かる。私の身長が高いためもあるけれど、どうしても見下ろす形にどうしてもなってしまう。何となく悲しい。 「ごめん――芹。本当に悪いとは思うの。けれど、今すぐ、今すぐ深見さんの場所を調べてくれない? できるよね?」  いつも私の場所に正確に現れるのだから、そんな事造作も無いのかもしれない。そんな事を考えながらここに来てしまっていた。勝手な妄想とお願い。そんな事本当は頼みたくない。けれどもし頼めるのなら一つ一つ潰していくよりも早く着くことができる。そう思ってしまったのだ。 「嫌です」  『出来ない』ではなく『嫌だ』と芹はきっぱりと言いきった。少し不快な顔。『深見』と言うその名が誰を指すのか分かったのだろう。 「芹」  ため息一つ。 「どうせ助けようと考えているんでしょう? ――あの時だって放り出してしまえばよかったのに。千里様が私を頼ってくださるのは嬉しいのですけど。もっと違う事で頼ってくださいませんか?」  どこか棘のあるような声を無視するように身を翻す。時間の無駄だ。急がなければならない。助けないと。
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