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驚きで微かに声が跳ねた。
「言ったよね。芹に関わるなって――どうして関わっているの?」
彼女は私の質問には答えなかった。発せられた低い声と共に重苦しい緊張感が一気に落ちる。
すでに雰囲気に飲み込まれているのかもしれない。私は緊張を飲むようにして息を飲みこんでいた。
「どうしてって――私は芹に助けてもらっていて……ってそんなこと言われる覚えはあなたに大体ないし、それに」
誤解を解かなければならない。と思った。もし芹と私の事を勘ぐって憎んでいるのであれば、それは違うのだと。けれど最後まで言わせてはもらえなかった。
「やめて」
遮るようにして彼女は言った。それは体育館の中に響くような声に私は肩を委縮するように一度揺らした。
「関わらないで、言った。――それに。助けてもらう? 命令の間違いじゃないの? いつだってあんたたち一族は芹を良いように使うから」
「そんな事してない!」
私は彼女の声を遮る様にして叫んでいた。びりびりと体育館に反響する声に、思わぬ凪は少しだけ眼を見張った。反論されるそんな事なんて考えていなかったのかもしれない。
「父も祖母も、芹の存在さえ知らなかったのにそんな事できるわけない!」
この間それとなく鏡の事を聞いたのだ。だが二人は口をそろえて笑う。『お守りだ』と。それが無かったら死んでいたかもしれない不思議な守りなのだと。芹の事など知りもしないようだった。祖母から聞いた感じだと、おそらくそれは曽祖父も然りだろう。であるのに命令などできるわけがない。
まるで私たちが芹にとって悪魔のような一族として侮辱されたようで嫌だった。
「そんな事してない」
彼女を見据え低く言う私に、彼女は冷たく視線を投げ返し、鼻を鳴らした。
「……どうでもいいわ。いいように使っているのは事実だし――存在を知らないのはとうに知っているし」
「じゃあ、どうして――」
そんな事をと言いたかったが声に出ることはない。それを遮るようにして凪の声が響いたからだった。
「知っている?一族の中で芹の存在を知る者は私が知っているだけであんたを含め五人。長い時の中で五人よ? そのうち四人は家族で、口を噤んでこの世を去った。あと一人は――あの女、瑠璃。そして『中藤 千里』あんただけよ」
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