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「晃子!?」
弾け飛ぶように立ち上がると私はベッドから布団を引きずり降ろし彼女の身体に掛けた。少し息が荒いようにも見える。どうしてこんな身体で私に会いに来たのだろうか。だがそんな事を考えている場合ではない。
泣きそうな思いで、口許を一文字に結ぶ。携帯を乱暴に掴むと震える手で番号を押そうとした。だが――その手を晃子の滑らかな指が制するように掴む。
「あき、こ?」
「千里様。私ですよ?」
声に思わず私は携帯を鈍い音を立てて落としていた。確かに声は晃子だ。その姿も双眸も。けれど。
「芹?」
どうしてだろう。すべて重なって見えた。なにもかも。漆黒の目をした青年に。
思わず心臓が反応するように小さく震える。
「――こんな時間に知らない私が訪ねても返されるだけでしょう? ――迷惑かとも思いましたが。気になっているかと」
ちらりと時計に目を向けると十時を回っている。私を呼び出すには遅すぎると判断したのかもしれない。
「だけど。どうして? 酷く疲れてる――凪と何かあったの?」
何も無くはないはずだ。芹は晃子の姿のまま小さく息を吐き出した。ただ、覗き込む私から一瞬目線を外したのはなぜだろう。少しだけ傷つく。
「話し合いを――大丈夫です。もう凪があなたと接点を作ることはまずないでしょう」
一体疲れ切るまでどんな話し合いをしたのだろうか。あの憎悪が今でも頭から離れないのだけれど。
「――すいません」
私の心を察したのか些か困ったようにして芹は謝った。
「とにかく何か飲む? 温かいものがいいよね。冷え切っているし。疲れを取る物――ミルクとかでいい?」
「――いえ。すぐお暇しますので」
何となく少し寂しく感じた。
「そう?」
私は坐り直すと芹を見つめた。本当によく似せてある。髪も、目も。その仕草でさえも。すべて彼女だ。
「あ、あの?」
気づくと思わず手を伸ばして頬を撫でていた。――どうなっているのか知りたかったかに過ぎなかったが、困ったようにしている芹の双眸と目が合って慌てて手を離す。
声にならない悲鳴。恥ずかしすぎて、顔が耳まで赤くなっていく。
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