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中学の時ひそかに憧れていた。本当のところは自分でもよく分からないが、私の――初恋だったように思う。淡い思い出た。ついにそれを伝えること事など一度もできなかったけれど。確かそれは晃子もよく知っているはずだ。
「一之宮くん?」
「中藤?」
彼は私がどうしてここに居るのか。と言いたそうな表情で困惑気味に晃子へ眼を向けた。相変わらず猫のような釣り目だ。私と晃子が幼馴染であると言う事を知らないわけではないだろうがここで私に会うとは思ってもいなかったらしい。中学の同級生に知られたくなかったのだろう。彼の顔は微かに赤らんでいるのが見て取れた。
「へぇ」
ジワリとなんだか黒いものが心の奥から上がってくるようで私は喉を鳴らしていた。悲しいのか苦しいのか怒っているのか――よく分からない負の感情を押し込めるように私は眉を寄せた。心臓がけいれんするように脈を打っているのが分かる。ジワリと額に汗が滲むのが分かった。
それを隠すようにして笑顔を浮かべたままの私だったけれど、晃子にはどう見えているのだろうか。
晃子の表情は固まったまま動いていないように見えた。それこそ人形の様に。
「付き合っているの?」
別に頭の中で終わった感情なんてどうでもよかった。そんなものずっと持っているほど私はたぶん一途でもないから。あの少年が誰と付き合おうが私には一つだって関係ないし祝福だってできる。けれど何だろう。この疎外感は。私は殆ど逃げるようにしてに二人から目を反らしていた。
「え? あ――違うのよ。そこで偶然にあって」
苦しい弁解だと思った。心配してくれるのは分かる。けれどそんな事を言って欲しい訳ではないと思った。どうしてなのか何を言って欲しいのか、私にもよく分からない。
なんだか悔しくて微かに口許を噛んだ。
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