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装丁が新しいものから古いものまで混ざり合った本棚が壁をすべて覆い尽くしていた一室で、一風変わった人物がカーテンで和らいだ太陽の光の下で何度も読まれたせいでボロボロになった本を読んでいた。
その人物は室内だというのに赤茶のフードを深々と被って黙々と本を読み進めていたが、来客の存在に気がつくと慌てることなくその本に栞をさして閉じた。
「こんにちは。いや、こんばんはかな?……でも、そんなことは君には関係ないの知ってる。どうしたかしたのかい?」
椅子に座ったまま顔だけ動かして来客見るが、目元を隠しているフードだけは一向に取ろうとしない。客はそのことを特に咎めるわけでもなく、溜息をついて用件を切り出した。
「……女王陛下の記録はどうなっている」
「記録ねぇ。今まで方々の分は一通り全部終わったけど、気になるならどうぞ?見たいのはこの方のでしょ?」
すっと手を挙げて指を鳴らすと、本棚の中に収まっていた本の内の一つが音もなく引き抜かれて客の手元までやってきた。
本棚に入っていた本の中でも見るからに装丁が新しいその本の表紙を見たその客は、鋭く光らせていた目をわずかに緩ませた。
「借りていくぞ」
それだけ言うと返事も待たず客はその部屋から出て行き、フードをかぶった人物だけが部屋に残された。
その人物は先ほどまで読んでいた本に手を伸ばすと机の上に散らかしたままになっていた写真の存在に気がついた。
口の両端をあげて笑顔を作ると、大切な宝物を扱うようにその写真を一枚ずつまとめていく。
すべての写真をまとめ上げると、その人物は『こちら』を見た。
「こんにちはだか、こんばんはだか、おはようだかは知らないけどはじめまして。僕の名前はスーフェル。
周りからは親しみもこめてスーさんと呼ばれてるから、君達もぜひそう呼んでほしいな?
僕はこの国の行末を見守る者で、雪の女王陛下とそうは呼ばれなかった哀れな王達にずっと仕え続けている妖精。
ここに来たということは君達は一度は見たことがあるはずだよ、僕らの女王陛下のこと」
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