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まきの虚ろだった瞳に微かな光が戻り、口の両端を小さく上げて笑うスーフェルをじっと見つめた。
その後ろでオーブとクェルはお互いに顔を見合わせながらその様子を静かに見守っていた。
「もちろんさ。悠久の時を閉じ込めた氷河色の髪をした君は、人間だけど僕らにとっては『特別』な人間なんだ。
君が悩んでいる他のことだって、君は氷魔法との相性がとてもいいから、ふとした瞬間にそういう意思もないのに魔法が勝手に発動してしまっているだけさ。
これは訓練すればいくらでも制御できるし、制御が出来るようになれば今まで傷つけてしまった人を逆に守れるかもしれないよ?」
赤茶のマントを翻しながら立ち上がったスーフェルは、少し体を前に倒すとまきに優雅なしぐさで手を差し出した。
「……ねぇ、君さえよければ僕らのところにおいでよ?僕が魔法と制御の仕方を教えてあげる。
君は、誰かを傷つけてしまう今を変えたいとは思わないのかい?」
「変えたい……けど」
「……決まりだね。さぁ、僕の手を取って?」
俯いたまきがゆっくりと顔を上げて躊躇いながらもスーフェルの差し出した手に手を重ねると、スーフェルはその手を握ってまきを引っ張った。目を見開いたまきは抗うすきも与えられず、その勢いのままスーフェルの胸の中に飛び込んでいった。
羽織っているフード付きのマントのせいで少し大きく見えるが、実際には幼いまきと同じくらいの体格と思われるスーフェルは、自らの胸の中に飛び込んできたまきを危なげなく受け止めて抱きしめた。
「お帰り、まき。こんな雪の中をさまよっていて疲れてるでしょ?
そんなに無理しなくていいんだ。さあ、そのまぶたを閉じておやすみ……」
まきの耳元に口を寄せてつぶやいた途端にまきの体が崩れるように力を失い、無抵抗のままスーフェルに完全にその体を預けていた。
同じリズムで呼吸する音だけが聞こえることからして、どうやらまきは意識を失っているだけのようだ。
まきの意識が完全に消えたことを察したのか、スーフェルは一瞬戸惑いの表情を変えたがすぐに口の両端を上げて微笑んだ。
ただ、その微笑みは先ほどまでまきに見せていた温かみのあるものではなく、歪で人に恐怖を植え付けさせる類の微笑みだった。
フードと長い前髪に隠された顔の上部がどうなっているかは全く見えないが、それが逆に他者を寄せ付けない異様な空気を醸し出している。
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