第1話

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「じゃ、春野木、簡単に自己紹介できるか?」 「はい。春野木 桜(はるのき さくら)と言います! 皆さんと、お友達になりたいです。よろしくお願いします!」 彼女―…春野木 桜は、小首をかしげてリクと目を合わせると目をキラキラさせ、にっこりした。 本当に、本物だった。 茶色いふわふわした髪も、小さくて細い体は着馴れない制服に逆に着られている。 「なんだ?リク、知り合いかー?」 「お前…なんで…?!」 「リク君!!ね、すごいでしょ?私ね、とうとうここにこれたの!!」 すごいなんてもんじゃない。 何が起きたか分からない。 これを奇跡と呼ばずして、一体何だというのか。 嘘だと思った。早く彼女に触れて、嘘ではないと確かめたい。 「リク、知り合い?」 「なんだよリクの友達なのか?」 「あ…あぁ、そんなとこ」 リクは、なんとかそれだけ答えた。 少女とリクの間だけ、空間がつながったような、時がとまったかのような… そんな気になる。 「じゃー、春野木は鳩美の隣の席に… あそこの、一番後ろの真ん中だ。 あそこに座ってくれるか」 「はいっ」 リクも、現実になんとか自分を引き戻しながら、静かに座った。 彼女はリクの隣に女子生徒をはさんで、向こう側の席についた。 と言っても、ここは本来昌秋の席なのだが。 ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。 彼女は凛とした、そして少しわくわくした様子で、真っ直ぐ前を向いている。 その横顔が、懐かしかった。 1時間目の授業が始まる前、リクは誰かが少女に話しかけるより先に、彼女を引っ張って教室を飛び出した。 「リク君、あのっ…」 少女はリクの早足に、一生懸命ついてきた。 到着したのは、生徒会室。 放課後以外の時間、この教室は誰も来ないのを知っていたからだ。 リクは、そこに着くまでは何も言わなかった。 言いたいことは、頭を必死に駆け巡ってはいたのだが。 簡単に、言葉にならなかった。 バタンッ 生徒会室に入ると、リクは鍵を閉めて少女を奥のソファに座らせた。 外から見えない、本棚の影。
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