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「… お前…」
「…リク君、あたしねっ…」
リクはがばっと、少女を腕に包み込んだ。
花のようにほんのり香る髪と、すっぽりおさまる小さな体。
「リク君…!」
「…本物…なんだよな…?!」
リクはドキドキしながら、やっとそれを問う。
「そうだよ、あたしだよ、リク君」
色々な思いが、体の各地からこみあげてくる。
泣きたいくらいに、嬉しかった。
「リク君、あのね」
リクはそっと少女を離すと、そのまま床に腰かけた。
「あたしね、人間になったの。
リク君に会いたくて…どうしても会いたくて」
少女の目が、きらきらした視線を送る。
リクはその光を、真っ直ぐに受けた。
「…あぁ。すげーじゃん」
「桜の大精霊様にね、あたしお願いしたの。
それで、叶えてくれたんだよ。
リク君、夢みたいだよ。あたし、もう一度戻って来れたの…!」
「…あぁ。すげーじゃん」
リクは繰り返した。
「これから、ずっと一緒にいれるんだよな?」
「…えっと…」
少女は少しうつむいた。
「えっとね、ただで人間になったわけじゃあないの。
桜の大精霊様はね、こう言ったの。
”お前の桜は本当に可愛らしく咲き、美しかった。
草花も平気で踏みつぶすような人間になれば、お前の美しさは消えてなくなる。
人間になって、お前が桜よりも美しい姿を見せてくれ。
そうしたら、その姿はお前のものだ。一生”
…って」
「…つまり、どういうこと?」
「人間のあたしが、桜の時よりも美しい姿を、大精霊様にお見せするの。
そうできた時、あたし本当に人間になれるんだ」
リクはよくわからないまま、頷いた。
「…そっか。よくわかんねーけど、大丈夫だよな?」
「…うん。あたし、頑張るね。まずはしばらく、人間の世界を見てみる。
それから、考えてみる。
来年の、一番最初の桜が咲くまでに…」
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