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目が覚めると、先ほどの男がちょうど部屋に入ってきた所だった。
彼の持つお盆にはお粥と、湯のみがふたつ乗せられている。
男は起き上がった私にちらりと目をやりつつそばに座ると、お盆ごと私に差し出した。
「俺が作ったものだが食え。 悪いな、今は手が空いてる奴がいない」
手が空いていないとは、お母様かお祖母様だろうか。
でもそれなら普通『やつ』なんて言葉は使い方はしないか。
では、所帯かなにかだろうか。
というか、男の人が調理なんて。
ついぼうっとして考え込んでいると、漸く黙ったままの自分に気がつき、私は慌てて返事を返した。
「あ、いえ。 とんでもないです。 ありがとうございます」
お盆を受け取り、それに乗せてあった湯のみを一つ、男に渡す。
「すまない」
男はそれだけ言うとそれきり、何も喋らなくなった。
私が渡したーーと言っても彼が淹れてきたものだが。
それに少しだけ口をつけるが、すぐに離す。
猫舌か。
余計な観察を交えつつ、お盆の上に置かれたお粥を覗き込む。
私からいろいろと聞きたいことがあったのだが、今はなにも話す気が無さそうだ。
仕方なく諦めた私は先にお粥をいただくことにした。
お粥を掬って、一口含む。
久しぶりに訪れた食の感覚に、思わず口元が綻ぶ。
暫くして漸く全て食べ終わり、お茶を一口飲んで息をついた。
旅をしていたと言ったとおりただ歩いていたので、最近は何も口にしていなかった。
久しぶりの食事は喉を通りにくいもの……とは流石に口にするこができないので、黙って全てを押し込んだ。
「あの、ありがとうございました」
「ああ」
私が礼を言うと、やっとの事で会話が始まる。
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