第1章 始まりと出会い

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「あの、本当に今更ですが。 貴方の名前を聞かせていただいてもいいですか?」  私が言うと、その人が僅かに顔をしかめたのがわかった。  怪しまれただろうか。  伺うように男を見るが、その表情から読み取れるものは少ない。  そもそもこの人は、自分の名を名乗る気はなかったのだろうか。 「助けていただいたのに名前を聞かないのは失礼かと思って。 ……それに、私は名乗りましたし」 「斎藤一だ」  男は私の言葉に被せてそう答えた。  気に障ったのかと思えば、案外普通に答える男に少なからず安心する。  やはり表情に出るものはないが。 「斉藤さんですね。 本当に、助けて頂いてありがとうございました」 「ああ」  彼にもう一度礼を言ってから、手にしていた湯飲みを置いて立ち上がる。 「このまま失礼しても?」 「ああ、構わない」  特に怪しまれるようなことはなかったようだ。  斉藤さんの言葉を確認して立ち上がると、そのまま私が寝ていた布団を片付ける。  斉藤さんが退室していた間に、乾いていた着物の着替えも済ませた。  着ていた着物を洗濯もせずに返す事に少しばかり抵抗を感じるが。 「それでは私はこれで。 みなさんにもよろしくお伝えください」  黙って頷く斉藤さんに、一つ笑みを見せてから部屋を出た。  それからぴたりと立ち止まり、まだ部屋にいるであろう斉藤さんを返り見る。  不思議そうな顔でこちらを見る彼に、私は苦笑いを返した。 「えーと、玄関ってどちらでしたっけ?」 「ああ、悪い」  ……恥ずかしい。  よく考えれば、気絶していた間に運ばれたのだから、私がこの屯所内を知るはずがなかった。
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