第1章 始まりと出会い

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「…………はあ」  斉藤さんに連れられ、漸く屯所を出た私はまた当てもなく歩き始めた。  そんな私はいつの間にか女中のことは忘れていた。  ふとある人物を思い浮かべるが、それもすぐに打ち消す。  勝手に出てきておいて、もう一度置いてくれとは言えない。 「お姉ちゃん」 「……はい?」  不意に下の方から声が聞こえるので驚きながらも見下ろすと、そこには小さな男の子が立っていた。 「どうかしましたか?」  怖がらせないようにと笑いかけたが、失敗だったらしい。  男の子の目には涙が浮かぶ。 「お母ちゃんが、居らんようなって……」 (……お母さん?)  完全に自分が悪いと思い込んでいた私は目が点になる。 「はぐれたんですか?」 「っうん……っ…」  成る程、涙の原因はこれだったらしい。  男の子は何度も涙を拭うが、それでも一向に止まらない。 「一緒に探しましょうか。 お母さんとはどこではぐれたんですか?」 「……わからん」 わからない……? それじゃあ探しようがーー。 「っうわぁぁああん!」 (………!)  これでは私が泣かせているみたいだ。  慌てて辺りを見回すと、案の定怪訝そうに私をみる周囲の人々……。 「ほら、泣かないで。 きっと見つかりますよ」 「ほんまに? お母ちゃんに会える?」 「はい、きっと会えますよ」  男の子の前に屈んで、その子の頭に手を伸ばす。  頭を撫でながら慰め続けると、暫くして漸く泣き止んだ。
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