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「なかなか見つかりませんね」
「……うん」
とりあえず市中を回ることにした私たちは、適当に歩いていた。
「すみません、この子の母親を探してるんですけど……」
何軒か店に入って尋ねてみるが、誰に話しかけても首を振られるばかり。
私が再び歩き出そうと一歩踏み出すと、不意に繋いだ手に力が入った。
視線を下ろすと、男の子は俯いていて顔が見えなかった。
「どうしましたか?」
「お姉ちゃん、疲れた」
男の子の顔色を覗くと確かに疲れが見える。
「少し、休みましょうか」
頷く男の子の手を引き、近くの河原に腰を下ろす。
私がぼうっと川を眺めていると、少しして、ポスっと男の子が私に寄りかかってきた。
隣を見ると、その子は目を閉じて、すうすうと寝息を立てている。
「……寝ちゃったんですか?」
小さく問いかけるが、答えは返ってこない。
よほど疲れていたようで、気持ち良さそうに寝ている。
「……困りましたね」
空を見上げると日が落ちかけていた。
仕方が無いと私も体を倒せば段々と瞼が重たくなってきた。
「少し、だけ……」
恐ろしいくらい素直な男の子の存在に、少なからず気を許していたらしい。
私はそのまま目を閉じた。
「お姉ちゃん……」
遠くなる意識の中、男の子の呟き声が聞こえた。
心細いはずの男の子が私についてきてくれる。
私にこの子のお母さんを見つけることはできるのだろうか。
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