第1章 始まりと出会い

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 暗く重たい空から冷たい雨が降り注ぐ。  季節はもう皐月に入ろうとする頃。  出歩く人々は皆、家の中に駆け込んでいき、辺りはすでに誰の姿も見受けられない。  そんな中に、少女が一人。 「……困りましたね」  少女は特に当てもなく歩いているようだ。  急な雨に驚いたものの、何も持たない彼女には為す術もなくーー。  途中に空き家を見つけたのだが、人一人としていないその家にも住人がいないという確証はない。  帰ると知らない人が居座っていた、なんてことになりかねない。  それだけは御免だと、彼女は雨宿りをすることも諦めた。 「ああ、ずぶ濡れ……」  自分を見下ろせば、身につけている着物は大量の水分を含んでいることがわかる。  そうして今日、何度目かになるため息をついたのだった。
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