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「もしかしてそれが持ち上げられなかったんですか?」
振り返ると沖田さんが驚いた様子でこちらを見ていた。
「ええと、はい……」
私が素直に頷くと沖田さんは私に近づいてきてそのまま押しのけた。
え、なに……?
「……………はい」
「あ、ありがとうございます」
私を押しのけて何をするのかと思えば、沖田さんは水を汲んでくれたようだ。
彼は私が持ってきた盥に移し替えるとそのまま押し付けた。
「別に……勘違いしないでくださいよ。 信じたわけじゃありませんから」
言うとすぐに去って行ってしまった。
……とりあえず変なことはするなということですよね。
沖田さんが戻って行くのを見送ってから沖田さんに手渡された盥を抱え直す。
それから私もすぐに戻り洗濯を始めた。
疑っていても助けてはくれるんですね。
なんだかちょっと意外だった。
洗濯ものは今の隊士、30人ちょっとの人数分ある。
「よし」
気合を入れると漸く洗濯を始めた。
ーー数刻後ーーーー
袴を物干し竿に掛け、後ろを振り返る。
目線の先にはすでに水だけが張られた盥に洗濯板。
お、終わりました……。
一息ついてもう一度前を向けば物干し竿に掛けられた浴衣やら道着やら風に靡いている。
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