第5章 新しい朝

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洗濯物を干すだけでも一苦労ですね……。 さて、そろそろ昼餉を作り始めないと。 片付けをするために盥と洗濯板を抱えて立ち上がった。 今は大変だがもう少しすれば慣れて効率も良くなるのだろう。 そんなささやかな期待を胸に歩き出した。 ーーーー・ーーーー・ーーーー ぐつぐつと野菜たちが煮える音がする。 火を消すと念のためにもう一度味見をした。 おそらく整っているであろうその味はまさに私が施した味付けそのもの。 前々から気がついてはいたが、普通の味付けと私が習った味付けとは少し違うようだ。 ……沢庵を切ればあとは盛り付けだけですね。 そうしているとふとある気配に気がつく。 こちらに向かっているようだ。 気配を消しているつもりのようですし、気がついていないふりをした方がよさそうですね。 「よし、沢庵は切りましたし。 あとは盛り付けだけですね」 満足そうに独り言をつぶやいてみる。 私が気がついていたと知られて空気が重くなるのも面倒だからと言ってみたものの、やはり寂しい人にみえるのでやめておけばよかった。 後悔しても後の祭りだが後悔せずにはいられないこの空気感。 「それなら少し、時間をいただいてもいいですか?」 よかったです、反応があって……よかったです。 ちょっとだけこの人に感謝した瞬間だった。
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