第5章 新しい朝

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「あ、はい。 すみません、気がつきませんでした」 いかにも今気がついた風に返事を返す。 それからなんとなくほんわかした雰囲気の人を目指して取り繕ってみた。 「初めましてですよね。 私はここの女中をやらせていただくことになりました、雛と言います」 にこりと笑って頭を下げた。 やはり第一印象は大事なのでこういう場ではきちんとやっているつもりだ。 「雛、さんですか。 よろしくお願いします。 私も最近隊にはいったんです」 「ふふ、呼び捨てで構いませんよ。 そうなんですね、それならもうここには慣れましたか?」 確か隊士募集をしたのはひと月ほど前でしたっけ。 私はそのとき偶然大阪にいたため壬生浪士組と出くわしていたのだ。 隊士募集のために道場を回っていると噂に聞いた。 ダンダラ模様の目を引く羽織を着ていたことで、いい具合に広まっていたらしい。 「はい。 だいぶ慣れましたよ」 彼はにこやかに答えた。 やはりこの人は忍なのだろう。 順応能力にも長けているようだし、何より気配を絶つことができる。 普通の人ならおそらく気がつくことはない。
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