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歩いている道すら見えない闇の中を、アインは歩いていた。目指しているのは、徒歩5分と言えそうな位置に見える家屋の光である。
この辺りは城下から大分離れ、家も疎らなため夜の間は犯罪が起きやすいと聞いていたので、アインの足も自然と急ぎ足となる。結果、追い剥ぎ等に遭うこともなく目的地に着いた。
家の戸をノックし、中にいる人を呼ぶが、返事は無い。ここまで来て追い払われたらどうしようかと不安になりつつあったが、やがて三十半ばといった感じの女性が出てくる。
「私はアイザック・ハーコート、旅の者だ。突然ですまないが、一晩泊めてもらえないだろうか」
顔を見ると同時に素早く、かつ礼儀正しく名乗って一礼する。女性は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐにおかしそうに笑いだした。
「……? 何か?」
「いや……構わないよ。とりあえず、中に入りな」
扉を開けたまま、女性は中に入る。腑に落ちない部分を持ちながらも、アインは女性を追って中に入り、扉を閉めた。
「変な人だねぇ。宿屋が泊まりたいって奴を拒むわけ無いだろう?」
「え?」
一度外に出る。扉の上には、確かに宿屋であることを示す看板が掲げられている。アインは中に入れてもらうことをとにかく急いでいたので、見落としていたのだ。
「すまない、気づかなかった。普通の家だと思って訪ねていた」
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