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「ご…。ごめんなさ…」
…わたしはいったい、何をしていたんだろう。
先生は、こんなにもわたしを大切に思ってくれているのに…。
なのに、わたしは…。
先生の過去まで自分のものにしたくて、…彼女との大切な思い出にまで、手を伸ばしてしまった。
あの映像を観ることで、先生が心の奥にきちんと仕舞っていた大切なものを、…無理やりこじ開け、引っ張り出してしまった。
わたしは、春山先生の気持ちを疑って、裏切って…。
それだけじゃない。
一番大切な、自分の思いまでも、嫉妬に歪んだ醜いものにしてしまおうとしていたんだ。
…先生にとっても、きっと…。
それは、きれいなものであってほしかったはずなのに…。
しっとりと潤んだ、美しいコハク色の瞳が、なおも自分自身を責めながら、わたしの姿を映している。
「ごめんなさい…」
わたしは、震える手で、先生の両頬を包んだ。
「先生、…ごめんなさい…」
唇を重ね、先生と同じように、柔らかく吸う。
先生の全てが、愛おしくて、切なくて、…閉じた目の端から涙が零れ、ぽたりと落ちた。
唇を離すと、先生は真っ直ぐにわたしの目を見つめていた。
涙でぼやけた視界にも、先生の瞳の、優しさと穏やかさを感じ取ることが出来た。
「…お前のせいじゃ、ないよ」
頬に添えられた右手の親指が、私の涙を拭う。
「俺が、悪い。…俺がもっと、お前のこと…」
先生の長いまつ毛が、微かに震えた。
「待たせて、悪かった。
もう、…不安にさせたりしない。
お前を今すぐ、…俺のものにするから…」
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