-2-

7/7
1066人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「ご…。ごめんなさ…」 …わたしはいったい、何をしていたんだろう。 先生は、こんなにもわたしを大切に思ってくれているのに…。 なのに、わたしは…。 先生の過去まで自分のものにしたくて、…彼女との大切な思い出にまで、手を伸ばしてしまった。 あの映像を観ることで、先生が心の奥にきちんと仕舞っていた大切なものを、…無理やりこじ開け、引っ張り出してしまった。 わたしは、春山先生の気持ちを疑って、裏切って…。 それだけじゃない。 一番大切な、自分の思いまでも、嫉妬に歪んだ醜いものにしてしまおうとしていたんだ。 …先生にとっても、きっと…。 それは、きれいなものであってほしかったはずなのに…。 しっとりと潤んだ、美しいコハク色の瞳が、なおも自分自身を責めながら、わたしの姿を映している。 「ごめんなさい…」 わたしは、震える手で、先生の両頬を包んだ。 「先生、…ごめんなさい…」 唇を重ね、先生と同じように、柔らかく吸う。 先生の全てが、愛おしくて、切なくて、…閉じた目の端から涙が零れ、ぽたりと落ちた。 唇を離すと、先生は真っ直ぐにわたしの目を見つめていた。 涙でぼやけた視界にも、先生の瞳の、優しさと穏やかさを感じ取ることが出来た。 「…お前のせいじゃ、ないよ」 頬に添えられた右手の親指が、私の涙を拭う。 「俺が、悪い。…俺がもっと、お前のこと…」 先生の長いまつ毛が、微かに震えた。 「待たせて、悪かった。  もう、…不安にさせたりしない。  お前を今すぐ、…俺のものにするから…」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!