第9話 萌喫茶

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「言葉を返すようですが、僕の所属する野球部のユニフォームにはAKBの文字が縫いこまれてます。それで、話を元に戻しますが、いま、エンターテーメント業界を席捲しているのはAKB48なんです。そして、それをコアに乃木坂とか博多とかいくつもグループが派生しています。これらはすべてテーマが萌なんです。それに、これらのグループの中心は女子高生なんです。我々、高校生の真面目な研究テーマとしてこの萌を取り上げて、展示と萌喫茶で世間の皆さまに『萌とは何か』を問いかけようという、壮大で今日的なテーマを、僕は提案しているんです」 「萌喫茶は客寄せパンダ的な要素があってまあ仕方がないとして、僕は萌をテーマにした展示には興味あります」  それまで、沈黙していたクラスでトップの成績を誇る有村秀太が発言した。  結局、クラス一の秀才の賛成と学級委員の押しで、このクラスの文化祭イベントテーマは「萌」と決まった。  最後に直美がこのクラスの文化祭実行委員を指名した。男子が伊藤良平と有村秀太、女子が川木田朋美と朝倉晶子だった。晶子はホームルームに消極的な自分がどうしてと思ったが、ストーカー事件以来どうも何をするにしても直美に頼りにされている節があった。  その日の放課後、二年B組の教室に居残り窓側の机を四つくっつけて、晶子たち文化祭実行委員は「戦略会議」を開いた。最初に、リーダーは全員一致で良平に決まった。その良平が提案した。 「まず、この文化祭を成功させるためにはクラス全員の積極参加が必要です。それで、今回の『萌』というテーマに反対を唱えた人たちにもこの実行委員に加わってもらおうと思います。具体的には、女子は斎藤かおるさん、男子は大川賢一です」  これに対して、朋美が疑問を呈した。 「考え方には賛成だけど、どうやって、かおるや賢一を萌賛成派にするわけ?」 「それは僕たちで説得するしかありません。朋美さんと晶子さんはかおるさんを、そして、僕と秀太は賢一を懐柔しましょう」 「大変なことになったわね。あの堅そうなかおるが本当に懐柔されるかしら…」  そう囁きながら、朋美はあなただけが頼りだという顔をして、右隣の晶子を見た。良平は話を続けた。
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