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「生徒が、憧れの先生の写真を注文するのは、まあ、アリ」
「……」
わたしは話の行き先が読めず、首を傾げた。
「だけど、…教師が生徒の写真を買うのは、まずいだろ?
見つかったら、怪しまれること間違いなし」
「…うん、そうだね」
「だから、…春山先生は、苦肉の策として、ある行動に出たわけ」
「……?」
更科くんはその事を思い出したのか、再びくすくすと笑う。
「ちょ、ちょっと…。なに?…ねえ、更科くん…」
わたしが焦れて急かすと、更科くんは何とか笑いを治め、私の顔を見た。
「俺、ちょうど忘れ物して、昇降口に戻って来たんだよね。
春山先生の背中を見かけて、何してるのかなーって思って、そーっと近付いて行ったら…」
わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「パシャ、って」
「…えっ?」
「パシャって音がしたの」
「パシャ…?」
「あの人、…貼り出された萌の写真を、――写メで撮ってたんだよ」
「……」
「…ね?…クールな先生のイメージ、台無しでしょ?」
そう言って、更科くんは声を押し殺しながら笑い出した。
「……」
…先生…。
わたしはあまりの嬉しさとくすぐったさと恥ずかしさと愛おしさに、熱くなった両頬をわしゃっと両手で包んだ。
…先生ってば…。
わたしが先生の卒業写真を写メで撮った時は、あんなに馬鹿にしてたのに…。
先生、こっそり真似っこしてるし…。
「萌、…顔、今にもトロトロに溶け出しそうだけど」
「…う、うん、大丈夫…」
緩み倒した顔をぺちぺちと叩き、出来る限りの真顔を保って、更科くんを見返す。
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