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「…ほんと、腹たつなあ」
更科くんはからかうような目で、
「結局、気付いてないのは、萌だけなんだって」
「…え…」
「周りからすれば、なんで萌が不安がってるのか、さっぱり分かんないわけ。
先生の背中からこれだけ大好きオーラが出ちゃってるのに、なんで気付いてあげられないのって、周囲はみんな思ってるのにさ」
「そ、…そうなの…?」
「そうだよ。月子だって、敵わないってわかってるから、あんなに必死で先生のこと寝取ろうとしてたんだろ」
「……」
「他人の恋愛については、マイクを通してめちゃめちゃ語ってたくせに、自分のことになると全然見えなくなるんだよね、萌は。
かと言って、潰れちゃうかと思えば、何があっても絶対に先生のこと大好きだしさ。
そこだけは揺らがないところが、またいらつく」
「……スミマセン……」
こてんぱんに言われしょんぼりしていると、更科くんはフッと表情を和らげた
。
「…まあ、好きなら余計に不安になっちゃうっていうのが、オトメゴコロって奴なのかな。
そこに付き合ってあげるだけの余裕がないと、甘アマな恋愛なんて出来ないのかもね」
「……」
「さて」
更科くんは、公園の時計を見上げた。
「そろそろ、最終バスの時間だ。…ごめんね、萌。遅い時間に呼び出して」
歩き出そうとする更科くんの背中を、わたしは咄嗟に呼び止めた。
「あのっ」
静かな公園に、わたしの声が弾むように響き渡る。
「更科くんは、…美雪さんの夢、見たりする?」
振り向いた目は、少し驚いたように見開かれていた。
「えっと…」
言葉の続きに困って、目を伏せる。
「…美雪さんが泣いてる夢を見ること、ある?」
「……」
ちら、と目を上げると、更科くんの綺麗な目に、前髪が影を作っていた。
しっとりと濡れた瞳が、輝いて見える。
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