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「それはね。 美雪さんが泣いてるのは…。 更科くんの、笑顔が見たいからだよ」 わたしの声は、囁きのように小さくなっていた。 「更科くんが笑ってくれないから、…美雪さんも、ずっと泣いてるんだよ」 「……」 更科くんは、黙って私の顔を見つめていた。 もし…。 更科くんが、心から月子ちゃんを憎むことが出来ていたら。 彼は、ここまで深く苦しむ事は無かったのかもしれない。 月子ちゃんを憎み切れないことで、更科くんはずっと美雪さんへの後ろめたさを抱えて来たのだ。 …踏み込んで、余計な事を言いすぎてしまったかもしれない。 ほんの少しの後悔を感じながら、わたしは黙って更科くんの言葉を待った。 「行こう」 更科くんが、穏やかに微笑む。 「うん…」 並んでバス停に向かいながら、二人はそのまま、一言も言葉を発しなかった。 最終バスの窓から、笑顔で手を上げる更科くんに、わたしも明るい笑顔で手を振り返す。 走り去るバスを見送りながら、わたしは…。 今夜、更科くんの夢の中で、美雪さんが笑顔を見せてくれることを、心から祈った。
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