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「…わかりません…」
「分からないの?」
少しイジワルな目が、からかうようにわたしの顔を覗き込む。
「『先生の好きな所。目、声、背中、腕』…あと、どこだっけ」
わたしは目を見開いて、口をポカンと開けた。
「『イジワルな顔、優しい顔、機嫌の悪い顔、笑顔…』」
「ちょ、ちょっと…っ」
慌てて、先生のコートを両手で掴む。
「み、…見たの…っ?」
「見たよ。だって」
先生はニッと笑顔を見せた。
「あの放送部で使ってた古い机、お下がりとして今は社会科準備室で使わせてもらってるから」
「……」
…うそ…っ。
「けっこう汚れてたから雑巾で拭いてたんだけど、脚の内側に見慣れた字がボールペンで書いてあるのを見つけてさ。
いくらなんでも、学校の備品をメモ帳代わりにしたら、いけないよな」
「……」
先生がさらに顔を近付ける。
「俺、犯人に心当たりあるんだけど」
「……」
熱を帯びた顔でじっと見返していると、先生の目がふっと優しくなった。
…あ…。
キス、されちゃう…。
ドキドキしながら、ゆっくりと目を閉じる。
…ん…?
なかなか唇が触れないので、そっと目を開けると、先生が顔を左の方に向けていた。
「ああ、我々にお気づかいなく。どうぞどうぞどうぞ」
「……」
ゆっくりと顔を振り向けると、そこには青ざめた祐希と、にやけた武藤とその仲間たちが団子状に固まり、固唾を飲んでわたしたちを見守っていた。
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