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「結局、精神論をいくら理路整然と語っても、そんなもの、生きてる人間には敵わないのよね。
組み立てられた知識や症例なんて、椎名さんみたいな子の存在が、ぜーんぶ吹き飛ばしちゃう。
でも…。
それでいいんだと思うの」
「……」
わたしが難しい顔をして考え込むと、フジコ先生がプッと吹き出した。
「あ、いいの。…本人は、何も分かってない方がいいのよ、きっと」
「…はあ…」
理解が出来ない事に納得がいかず、必死で言葉を反芻していると、
「そうだ。…ねえ、椎名さん」
「はい」
「ひとつ、お願いがあるの」
「…はい、何ですか」
フジコ先生は、わたしの腕を引き、耳元に口を寄せた。
新しい香水の香りに、柔らかく包まれる。
「卒業しても、ずっと仲良しでいてね。
成人したら、一緒にお酒、飲もう?」
「…はい…」
なぜだか無性に寂しくなって、涙が込み上げそうになった。
感極まって抱きつくと、フジコ先生は笑いながら、さらにきつくわたしを抱きしめてくれた。
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