-4-

6/10
1087人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
*** カウンセリング室を出て昇降口に向かう途中、角を曲がると、長い廊下のずっと先に、背の高いスーツ姿のシルエットが見えた。 さっきまで教室で向かい合っていたのに、その姿が近づくにつれ、徐々に心臓の音が高くなる。 「お疲れ」 廊下の途中の、広い窓が作りだした陽だまりに、春山先生が立ち止まった。 「お疲れ様です…」 わたしも先生の1メートルほど手前で足を止める。 「とっくに帰ったかと思った」 「カウンセリング室に行ってたんです。 峰村先生、今日はたまたま、午前中だけこちらで仕事してたみたいで」 「そう」 春山先生は、少し身体を屈め、わたしの顔をじっと見た。 「…目、赤いけど。泣いた?」 「え、ほんとですか」 わたしは慌てて指先で目を擦った。 「今日子先生に泣かされたの」 「いえ、泣かされたんじゃなくて…わたしが勝手にさみしくなっちゃっただけです」 「そう」 春山先生はフッと笑って、 「今日子先生、いつもと何か違ってた?」 「え?」 わたしは先生の顔を思い浮かべてから、 「何かって、…どの辺ですか」 「いつもより、嬉しそうだった、とか、機嫌が良かった、とかさ」 「……?」 残念ながら、いくら考えても分からなかった。 「香水が変わってたくらいかな…。あとは気がつきませんでしたけど」 「そっか。…なら、いいや」 春山先生はにっこり笑顔を浮かべてから、スーツの内ポケットに手を入れた。 細長い紙袋に入ったものを取り出し、スッと差し出す。 「今日、受験を控えてる全員に配ったんだ。…俺からの御守り」 「えっ」 「大したものじゃないよ。えんぴつ」 わたしはぴょこんと飛び上がって、一歩進んで両手を差し出した。 ひょいと袋が逃げる。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!