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「ただし、お前のだけ特別仕様だから」 「……?」 「そこそこ御利益、あると思うけど」 もう一度差し出された鉛筆を受け取って、ガサガサと中身を開ける。 「これって…」 「俺が受験の時、使ったやつ。中古で申し訳ないけど。 ちなみに当日しか使ってないから、血と汗と涙は沁み込んでない」 袋の中には、きれいに削られた深いグリーンの鉛筆が3本、入っていた。 感動のあまり胸をじーんと痺れさせながら、わたしはぺこりと頭を下げた。 「ありがとうございますっ」 「どういたしまして。 …ここからが勝負だから、頑張って」 「はいっ」 「…そうだ。 さっき選別が終わったんだけど、お前、あさってからの特別授業の対象に入らなかったから」 「…そうですか…」 先生は可笑しそうに、 「なんでがっかりするんだよ。結果がめちゃめちゃ良かったからだろ」 「……」 「これから本番まで、塾の方でもカリキュラムが組まれてると思うから、そっちでがんばって」 「…はい…」 …もう、学校に来なくていいんだ…。 先生に会えなくなる事への実感が湧いて、わたしの心はずぶずぶと沈んで行った。 「…椎名」 「はい…」 「下唇のことだけど」 「……」 「吸いたくなるから、今は仕舞って」 「……」 わたしは頬を熱くしながら、はい、と大人しく指示に従った。
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