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ちら、と目を上げ、先生の顔を見ると、…その顔に、何となく疲れが見える事に気付いた。 「先生、…寝不足なんですか」 「ああ、少しね。…これから色々、やることも多いから。その準備で」 「…大変なんですね、先生って…」 「俺より、お前らの方が大変だろ」 先生はそう言って、ニッと笑った。 「いよいよ大詰めだから、…大したことは出来ないけど、俺もがんばらないと。 これが担任としての最後の仕事だしね」 …先生…。 何だか、自分のふにゃふにゃ感が急に恥ずかしくなって、わたしは背筋を伸ばした。 「先生、ごめんなさい」 「ん?」 「もう、ふにゃふにゃしません。わたしも、しっかりします。 先生がクラスの皆のためにがんばってくれてるんだもん。 そう思えば、しばらく会えないことくらい、ガマンしなきゃ」 「…うん。エライ」 コハク色の瞳に、白い床に反射した光が映り込み、美しく透き通って見える。 吸い寄せられそうになって、わたしは寸前のところで踏みとどまった。 「椎名」 「はい」 「本命の試験が終わったら、その足で報告に来いよ。 …待ってるから」 「はい…」 スッと右手を差し出され、わたしは戸惑って先生の顔を見た。 「健闘を祈る」 「……」 ドキドキしながら一歩進んで、右手で先生の手を握る。 先生とは、たくさん手を繋いで来たけれど、…握手は、これが2度目だ。 「…先生…」 「ん?」 「ありがとうございます。…絶対、合格します」 「うん」 解かれそうになった手を慌てて引き留め、きゅっと握りしめる。 「先生…」 「なに」 「…大好き」 「……」 先生は、少し照れたような、困ったような顔で、バカ、と言った。
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