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 その日からわたしは、大好きな家族や、新しい友達と言葉を交わすたびに、虚無感に囚われるようになった。  学校を辞める、という選択肢を視野に入れ始めたちょうどその頃、放送部の副顧問である春山先生と出会った。  放送部に入ってから、わたしの毎日が変わった。  恋愛相談を受けると、空っぽだったはずの自分の中から、相談者が欲しがっている言葉が、次々と紡ぎだされて来る。  そしてわたしの放送を聞いた人たちが、喜んでくれるようになった。  放送を続けるうちに、わたしは徐々に気付き始める。  周囲の人たちが欲しがる言葉を先回りして発しているだけだと思っていた、過去の言葉たち。  それも立派な、『私の言葉』だったのだ。  そして、ふと振り返った時、今まで観る事が出来なかった自分の足跡が、そこにくっきりと浮かび上がった。  今、わたしは新たな夢を抱いている。  高校教師になること。それも、担任の春山先生のような。  先生は、「わたし」の存在する意味を見つけ出してくれた。  わたしも先生のような教師になって、自分と同じように迷う生徒がいたら、その子の持つ輝きを見つけ出し、教えてあげたい。 『笑顔の練習のために鏡を見る暇があったら、受け持ちの生徒一人一人の顔を、必ず毎日、じっくりと見ろ』  いつも無愛想な顔をしている春山先生が毎朝、教室に入る前に、心の中で呟いている言葉。  先生の教え子であるわたしは、この大切な言葉を胸に、高校教師を目指すと決めた。  そして、今はっきりと見えるこの道の先にいるはずの、わたしの教え子たちにも、この想いを繋いで行きたいと思っている。  ただ…。  わたしは笑顔の練習も、ちょっとはするつもりだけれど。    卒業文集より
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