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「わ。さむっ」
外の空気は冷たくて、わたしは首に巻いたマフラーをさらにもう一周巻き付けた。
手を擦り合わせながら階段を降り、門のかんぬきを外す。
「本当に新年なんだね。実感がわかないなあ」
祐希の言葉がやけにしみじみとして聞こえて、その生意気さにわたしは思わず笑った。
車通りのないバス通りを渡り、いつもの公園の方に向かって歩き出す。
「それにしても、ねーちゃん分かりやす過ぎ」
「え…」
「うちのとーちゃんとかーちゃんみたいに呑気な人じゃなければ、嘘だって見抜かれてたと思うよ。
挙動不審だし、OK貰ったときだって喜びすぎだし」
「…そ、そっか。ごめん」
自分の言動を振り返り、確かに、と反省する。
「わかるけどさ、はしゃぎたくなる気持ち。…そりゃー嬉しいよね」
横目でからかうように見られ、わたしはつい赤くなって目を逸らした。
「ていうか、俺も嬉しいし」
「…え?」
角を曲がった瞬間、祐希の顔いっぱいに笑顔が溢れた。
「せんせっ」
手を振りながら、走り出す。
出遅れたわたしは、ちょこちょこと小走りでその後を追った。
「転ぶなよ、祐希」
公園の柵に寄り掛かっていた春山先生が、笑いながらこちらに声をかける。
祐希はあっという間に先生の元に辿り着き、頭をくしゃくしゃと撫でられ、仔犬のようにその手にじゃれた。
「久しぶり、先生!あけましておめでとう」
「うん、おめでとう」
わたしもやっと祐希に追い付き、横に並んで立った。
「あけましておめでとうございますっ」
「おめでとう」
「……」
「なに?」
「いえ…」
自分も頭をくしゃくしゃしてもらえると思っていたわたしは、本気でがっかりしていた。
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