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「お客さん、悪いことは言わない。今日はおとなしく家にいたほうが身のためですよ」
よく当たると評判の占い師が俺に言った。
「え? 俺が聞きたいのは結婚運なんだけど……」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。あなた、死相が出てます。命が惜しかったら、すぐ帰りなさい。それと十字に気をつけろと占いに出ています」
占い師に身の安全をしつこく注意されるた挙句、店から追い出された俺は不満げにつぶやいた。
「俺が死ぬって? そんな馬鹿な」
俺の右手の生命線は太くて長い。
だから、今まで手相をみてもらうと、必ず長寿になりますと言われた。
長生きできれば良いと言うわけではないが、早死にするとは言われたのは今日が初めてだ。
本当に当たる占い師なのだろうか。
俺は占い師の忠告を聞かず、夜まで飲み会で過ごした。
その帰り道、ふと時計を見るともうすぐ日付が変るところだ。
「なんだ、結局何もなかったじゃないか」
苦笑いしながら歩いていくと十字路に差し掛かった。
俺は占いの内容を思い出し、「まさかね……」と考えながらも、そのまま進む。
その時だ。
居眠り運転の車が突っ込んできたのは……。
薄れゆく意識の中で最後に見えたのは俺の右手だった。
ざっくりと切れた切り傷が俺の生命線を十字に分断していた。
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